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東京地方裁判所 昭和52年(ホ)6501号 決定

被審人 マックス・ファクター株式会社

主文

被審人を過料三〇万円に処する。

手続費用は被審人の負担とする。

理由

一  救済命令の確定

一件記録によれば、被審人は、滋賀工場製造部仕上課第三係係長中村久男を昭和四九年一月九日付で東京本社に配置転換する旨発令したが、合成化学産業労働組合連合マツクス・フアクター労働組合は、右配置転換が不当労働行為であるとして被審人を相手方として東京都地方労働委員会に不当労働行為救済の申立(都労委昭和四九年(不)第三号事件)をしたところ、同委員会は、昭和五〇年一二月二日「被申立人マツクス・フアクター株式会社は、申立人組合員中村久男に対する昭和四九年一月九日付配置転換命令を撤回し、同人を原職に復帰させなければならない。」等の命令を発し、右命令書の写は、同月二〇日被審人に交付されたこと、被審人は、同月二六日中央労働委員会に再審査の申立をしたが、昭和五二年三月一七日右申立を取下げたので、右命令は、確定したことが認められる。

二  被審人の救済命令の不履行

一件記録によれば、被審人は、中村久男に対し昭和五二年四月一日付の辞令をもつて被審人の滋賀工場製造部仕上課係長として勤務することを命じ、同月一一日から同人を配置転換前の原職である第三係係長の職に就かせ、役職手当を支給したが、他方、同年六月三〇日までの間に、中村が仕上課課長代理土橋幸一らから命ぜられた業務は、同係に関する書類の閲覧及び研究、品質管理及び作業標準に関する月刊雑誌等の閲覧及び研究のほかは、係長の業務とは異なるタイムオーダーの工数分析、昭和五一年度仕上課における欠勤率集計及びアーデン・リツプステイツク・マシーン(口紅充填器)の導入経過に関する資料の閲覧及び研究を命ぜられたのみであつて、同人が担当を要望したにもかかわらず、被審人は同係係長の主たる業務であるベルトライン管理業務を依然として前記配置転換後に係長代行に任命した川島正造に担当させて、中村には担当させなかつたほか、仕上課の係長を構成員とするスケジユール会議への出席も認めていなかつたことが認められる。そして、右事実によると、右の期間被審人が中村に第三係長の主たる業務を担当させていなかつたことは明らかであり、また、被審人が右の期間中村に担当させた前記書類の閲覧、研究等は中村が二年余に亘り第三係長の業務を離れていた関係から一概に不要のものとはいえないとしても、中村の経歴と同係の業務内容からみて、三か月もの長期間必要であつたとは考えられない。従つて、これらの点を綜合評価すると、被審人は中村を右期間原職に復帰させなかつたものといわなければならないから、被審人には前記救済命令の不履行があつたというべきである。

次に、一件記録によれば、被審人は、昭和五二年七月一日付で川島係長代行を係長に昇格させたので、第三係の係長が中村及び川島の両名となり、同日、土橋課長代理は、右両名に対し、以後は両名で協議の上第三係の作業を進めるよう指示したが、両名がそれぞれ同係の全作業を管理する旨主張して譲らず協議が整わなかつたため、結局従来ベルトライン管理作業を行つていた川島がその後も右作業を担当し、右同日以降同年九月三〇日までの間、引続き前記書類の閲覧、研究等のみを行つていたことが認められる。右のように、一つの係に二名の係長を配置する変則的事態においては、被審人が係長間の職務分担及び序列を予め定めておかない限り、円滑な事務処理は期待できず、従前ベルトライン管理業務を行つていなかつた中村がこれを行うことは事実上困難であることが容易に予測できるのであるから、前記のような定めをしなかつた被審人には、右期間も前記救済命令の不履行があつたものといえる。

(なお、一件記録によれば、中村は、昭和五二年一〇月一日から昭和五三年四月三〇日までは第三係のベルトライン(以下略号Lで表わす。)のうちL1及びL2の作業管理のみを担当させられていたことが認められるが、右は、被審人が同係の業務を分割することとし、昭和五二年一〇月一日から中村にはL1及びL2を、川島にはL3及びモールデイングをそれぞれ担当するよう命じたためであり、右業務の分割自体は、被審人の経営権の行使であつて、分割された業務を比較しても、特に中村に不利益を与えることを目的としたものとは認められないから、昭和五二年一〇月一日以降は被審人において前記救済命令の不履行があつたとはいえない。)

三  右事実によると、被審人は、前記救済命令の確定後昭和五二年九月三〇日まで前記救済命令に違反したというべきであり、被審人の右違反は労働組合法第三二条後段、同条前段に該当するので、不履行の期間その他諸般の事情を考慮して被審人を過料三〇万円に処することとし、手続費用の負担につき非訟事件手続法第二〇七条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 桜井文夫 福井厚士 仲宗根一郎)

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